将来の活用の選択肢を広げ、子どもたちの居場所も広げる小さなまちづくり

  • 所在地 神奈川県川崎市高津区
  • 着手期間 2015年〜2017年 ※前職時代から続くプロジェクトです
  • クライアント 地主

課題・要望

もともと所有していた土地の隣の土地を新たに取得した地主さんからの、その土地にどのような建物をつくって活用すればよいのか?というご相談。地主としての「地域貢献にもつながる活用」と、親としての「自身の子どもへの事業継承にも配慮した方法」を望んでいました。

before

提案

クライアントは、二子新地駅近くの大山街道沿いの土地を代々受け継いできた地主さん。もともと所有していた土地の隣地を取得し、その土地の活用方法を検討していました。新たに取得した土地は近隣商業地域で、敷地の広さは30坪弱。クライアントは弊社にご相談にこられる前にいくつかの不動産会社や設計事務所へ相談しており、そこでは建蔽率と容積率を最大限消化できるボリュームのRC造賃貸マンションを建築することを提案されたそうですが、「それで本当にいいのか」とお悩みになられて、弊社にご相談に来られました。

 

今回の計画地の隣には、クライアントが所有している、当時で築28年のRC造の賃貸マンションが建っていました。住宅用のRC造建築の減価償却資産の耐用年数は47年。その状態で今回の計画地に新たにRC造の賃貸マンションを建てると、隣り合うふたつの土地に建つ建物の減価償却時期にズレが発生し、将来は再び土地ごとの活用を検討する必要が出てきます。せっかく隣り合う土地を所有しているのですから、土地をまとめて活用できるようにしておけば、未来の可能性も広がります。

 

自身が所有する不動産について、そう遠くない将来にお子さんに引き継ぎたいという考えをお持ちだったクライアント。この「将来の活用」まで見据えた考え方に共感していただき、既存のRC造賃貸マンションと減価償却の時期を合わせた、木造モルタル造3階建てを建築することになりました。

 

 

3階建ての建物は、1階が飲食店、2階と3階は賃貸住居。各階のテナント・入居者のリーシングも弊社がサポートを行いました。

 

1階を飲食店にすることはクライアントからの希望でもあり、「子ども食堂を開いてくれること」を条件に募集しました。地主であるクライアントのお母様は生前、近所で駄菓子屋を営んでおり、そこには地域の子どもたちがいつも集まっていたそうです。昔に比べて共働きの家庭が増え、シングル家庭も増えている今、学校でも家庭でもない、地域の子どもたちの居場所をつくりたいという思いをお持ちでした。

 

建物の竣工時から現在まで1階で営業してくれているのは、その考えに共感してくれたシェフのイタリアンレストラン。また、テナントのシェフには建物の設計の段階から参加してもらい、その意見を建築に反映することで本プロジェクトとのエンゲージメントを高め、長く良好な賃貸借関係を築く試みも行っています。

 

賃貸住居部分の入居者も、建物の計画段階で決まりました。クライアントの「地域で子どもたちを育てられるような場所にしたい」という考えは入居者の共感も呼び、2階住居の一部は、月に数回、子どもたちに地域の大人が自身の仕事や働き方の話をするイベントの場として使われています。3階は初代入居者が転勤で退去した後、フラワーアレンジメントやパンづくりの教室に使われるなど、コミュニティスペースとして地域の大人たちにも使われるようになりました。

 

そうしたコンテンツの他に工夫をした箇所がもうひとつ。今回のプロジェクトの敷地と、隣地のRC造の賃貸マンションの敷地の間にあった境界塀を撤去し、クライアントが所有する物件の入居者や利用者が使えるポケットパークにしました。良質な地域コミュニティ形成を促すことは地域住人の暮らしやすさにつながるだけでなく、物件のブランディングにもつながり、地域で今後も事業をしていくクライアントにとっても有益です。

 

今でも「この提案は私の予想を超えていました」とクライアントは仰ってくれます。人の暮らしに影響を与える「建築」としての在り方、クライアント家族に継承される「資産」としての在り方。「建築」や「不動産活用」など、どこか一方向からだけではなく、「全体最適を検討する」プロデューサーという立場だったからこそ、できた提案だったように思います。クライアントのコンサルティングは現在も継続しており、地域と共にあり続ける地主像と不動産活用の在り方を、一緒に考え続けています。

 

 

 

担当:和泉直人

設計: スタジオA建築設計事務所

施工:有限会社丸晴工務店

外構植栽:株式会社マインドスケープ

 

AFTER