このプロジェクトの場所は、公園に隣接する一棟のビル。その壁面にアートを描くというご相談でした。
しかし私たちは、ここでよく見かける“アートのためのアート”や、都市に飽和しがちなグラフィティとは一線を画したいと考えました。手法としてグラフィティやポップアートを否定するわけではありませんが、この場に本当にふさわしいものは何かを突き詰めて考えたとき、「主張するアート」ではなく、“背景に徹するアート”という方向性が導き出されました。
再編整備を経て生まれ変わろうとしていた公園。その隣で、日々の営みの風景をそっと支える存在でありたいと考えました。アートとしての自己主張ではなく、むしろ公園で過ごす人の視界の端に、ふと馴染んでいる存在として“背景に成り下がる”。
そのことで、都市の風景全体が少しだけやさしく、彩りあるものになればと願いました。
公園の背景になるビル
建物単体ではなく風景全体として価値を最大化させる
建物単体ではなく風景全体として価値を最大化させる

REQUEST
- 再編整備した公園の、背景となる絵を描きたい
- 建物の色はフラッシーだが、違和感がないようにしたい
- コンセプトは思いつかないので、まるっとお任せしたい
所在地 | 神奈川県川崎市 |
クライアント | 行政(川崎市) |
アートが“背景に徹する”という選択
“川崎らしさ”を織り込む
現在の建物のフラッシーな外壁色は、もともと大規模修繕時に“間違って”発注されてしまったものだったと、ビルオーナーから伺いました。塗り直すことも検討しましたが、それもひとつの「歴史」と捉え、この色を生かすことに。
デザインの骨格には、川崎の「川」の字をモチーフとしたラインを中心に、川崎市のブランドメッセージで用いられている3色をベースにしたグラデーションを施しました。
この色の連なりは「過去」「現在」「未来」へとつながる道を象徴し、背景に配置した7つの形は、川崎市を構成する7つの区を表現しています。
また、有機的なラインの中にさりげなく配置した米粒型のモチーフは、飢饉の際は先代のビル所有者が地域の方々に米を分けていたというエピソードに着想を得たものです。アートの中に、土地の記憶が静かに息づいています。
デザインの骨格には、川崎の「川」の字をモチーフとしたラインを中心に、川崎市のブランドメッセージで用いられている3色をベースにしたグラデーションを施しました。
この色の連なりは「過去」「現在」「未来」へとつながる道を象徴し、背景に配置した7つの形は、川崎市を構成する7つの区を表現しています。
また、有機的なラインの中にさりげなく配置した米粒型のモチーフは、飢饉の際は先代のビル所有者が地域の方々に米を分けていたというエピソードに着想を得たものです。アートの中に、土地の記憶が静かに息づいています。
“らしさ”とは何かを問う
川崎という都市は、常に変化の只中にあり、どこに光を当てるかで“らしさ”の意味も変わっていきます。
このプロジェクトでは、「アート=強い主張」という既成概念に対抗するように、“控えめであることの美しさ”を意識しました。公共性の高い場であることから、ワンワードで理解できる明快さも大切にし、川崎市のブランドメッセージと、所有者の記憶、そして未来への願いをブレンドする形で構成しています。
樹木が成長し、このミューラルが少しずつ覆われていく日がやってきたら――。
そのときは、絵が隠されることを嘆くのではなく、「自然と都市が重なり合うレイヤーの美しさ」として享受する。
そんな美意識を共有しながら、行政や所有者とともに進めたプロジェクトでした。
このプロジェクトでは、「アート=強い主張」という既成概念に対抗するように、“控えめであることの美しさ”を意識しました。公共性の高い場であることから、ワンワードで理解できる明快さも大切にし、川崎市のブランドメッセージと、所有者の記憶、そして未来への願いをブレンドする形で構成しています。
樹木が成長し、このミューラルが少しずつ覆われていく日がやってきたら――。
そのときは、絵が隠されることを嘆くのではなく、「自然と都市が重なり合うレイヤーの美しさ」として享受する。
そんな美意識を共有しながら、行政や所有者とともに進めたプロジェクトでした。
担当 | :和泉直人 |