Works手がけたプロジェクトたち

「完成」がゴールではない。 再開発に関わる全ての人が、50年先まで本質を見失わないための“羅針盤”を策定
建築プロデュース
再開発
OVERVIEW
  • 「箱物」に魂を吹き込むグランドビジョン 東急田園都市線 鷺沼駅前再開発において、構想から設計、そして50年続く運用フェーズまで、あらゆる意思決定の拠り所となる「グランドビジョン」を策定。
  • 「共存」から「有機的な共創」へ 交通広場・商業・公共施設(市民館・図書館)・住宅が一体となる大規模複合開発において、単なる機能の集積を超え、各機能が溶け合い相乗効果を生むための関係性を定義。
  • プロセスの継承が、まちの熱量を維持する 長期にわたる事業で関係者が入れ替わる中、単なる「決定事項の記録」ではなく、検討に至った「思想」や「熱量」そのものを継承し、まちへの愛着を育み続ける仕組みを構築。
風景が変わっても、体温は引き継ぐ。これからの「鷺沼らしさ」の定義
鷺沼をはじめとする田園都市線沿線の各駅は、鉄道とともに開発されてきた歴史を持っています。その歴史はおよそ50年と、長い時間軸で見るとまだ新しいまちと言えます。
一方で、その50年という期間の間には多くの人が移り住み、暮らしを重ねる中で、文化や風景、人と人とのつながりが少しずつ育まれてきました。
今回の駅前開発では、交通広場をはじめとして、商業施設、市民館・図書館、住宅などが一体となった複合施設が整備されます。これは、人口減少が進むこれからの社会を見据え、都市機能を効率的に集積する「コンパクトシティ」という考え方に基づいたものです。
これにより駅前の風景は大きく変わろうとしていますが、その中でも、これまでに育まれてきた鷺沼ならではの良さを大切にしていくことが重要です。また、市民館・図書館の移転は、新たな魅力を生み出す機会でもあります。グランドビジョンの策定を通して、これまでの積み重ねを大切に引き継ぎながら、これからの「鷺沼らしさ」をかたちづくっていくことを目指しました。
「施設」を「舞台」へ。公共と商業が溶け合う「共創」の形
多くの再開発現場で課題となるのが、同じ建物内にありながら公共施設と商業施設が分断され、相乗効果が生まれないという状況を目の当たりにしてきましたが、その限界への挑戦を行っています。
市民館・図書館と商業施設が同じ施設内に計画されているものはこれまでも多くありますが、実際には、同じ施設内とは言いながらもそれぞれが独立し、十分な連携や相乗効果が生まれていないケースが少なくありません。

本計画では、単に隣り合うだけの「共存」にとどまらず、互いが有機的に交わり合い、新たな価値を生み出す「共創」の形をめざしています。市民館・図書館の機能と商業機能が日常の中で交わり、そこを訪れる人々の活動や体験がゆるやかにつながっていく。そうした関係性そのものが、このまちの豊かさを育むと考え、これからの「鷺沼らしさ」につながると捉えました。
また、私たちは2022年より、「cafe&bistro SUBURB」の運営や駅前空間を活用したイベントをはじめとした地域デザインの取り組みを通して、このまちと関わってきました。
そうした実践から得た視点も活かしながら、「鷺沼らしさ」とは何か、各エリアに求められる本質は何かを、デベロッパーや行政といった立場の異なるステークホルダーが、同じ熱量で語り合えるコンセプトとアイデアを整理しました。
次の50年を支えるのは、マニュアルではなく「思想」
再開発は、10年単位の長い歳月を要するプロジェクトです。設計から運用へとフェーズが移り、担当者が変われば、当初の想いは往々にして希薄化してしまいます。
だからこそ、私たちが作成したのは単なる「完成イメージ図」ではありません。なぜこの形になったのか、何を大切にしようとしたのかという「検討のプロセス」と「理念」を一冊のブックに凝縮しました。 このグランドビジョンは、関わる全ての人たちが迷った時に立ち返り、本質を問い直すための“羅針盤”です。時代とともに社会や価値観が変化しても、この軸さえあれば、まちは生き物のように有機的に成長し続けることができます。 50年後の鷺沼が、今よりもっと愛されるまちであるために。私たちは、この「羅針盤」を手に、未来への歩みを進めています。
具現化へのコミットメント
羅針盤を動かし、風景を形にする。商環境プロデュースという「執念」。
私たちは、このグランドビジョンを「美しい物語」で終わらせるつもりはありません。 現在、私たちはこの思想を物理的な空間へと、1ミリの妥協もなく翻訳していく「商環境の総合プロデュース」という役割を商業運営予定者から依頼され、引き続きプロジェクトの最前線に立っています。
私たちが提供するのは、単なるコンセプトメイクという「上流工程」だけではありません。 描いたビジョンを設計図面に落とし込み、マテリアルの質感を選定し、施工のディテールを詰め、さらにはそこに息を吹き込むテナント構成(リーシング)の指針に至るまで。設計者や施工者、そして将来の運営者と同じ言語で語り合い、時にぶつかり合いながらも、「思想が形に宿る瞬間」まで伴走し続けること。それが私たちの介在価値です。
「箱物を作って終わり」という開発の限界を突破するのは、図面や契約書ではなく、そこに通い続ける「執念」に近い情熱だと信じています。 グランドビジョンを策定した我々自身が、空間の細部に至るまでの「解釈」と「実装」を担う。この一気通貫のプロセスこそが、施設に有機的な愛着をもたらし、結果として事業の長期的な資産価値を最大化させる道であると確信しています。
鷺沼の駅前に、単なる便利なビルではない、人々の体温が通う「舞台」を。 私たちは今、その手触りを感じながら、リアリティを持ってこのプロジェクトに関わっています。
担当:茶谷真衣, 秋元絵美香, 和泉直人